「第3章 オーロラになった日」より一部抜粋

 ガイダンスのおじさんにフォーカス12へ行けと言われた瞬間、ぼくは宇宙空間に浮かんだ自分を発見した。いつものフォーカス12は山の上の世界で、これも既に世界が出来上がりつつあるのだが、そこではない。
 ぼくはどういうわけか暴走してしまったらしく、宇宙へ出てしまったのだ。
 明晰夢と呼ぶにふさわしい、あまりにも鮮やかな映像で、ぼくは息をのんだ。ハイビジョンのSF映画でも観てるみたいだった。
 横たわったまま流され、視界の隅の遥か彼方に地球らしいブルーの星が見える。
 やがて、土星が見えてきた。土星はものすごく大きく、特徴的な輪も見える。と言うか、あの輪が見えたので土星だろうと思ったのだ。
 非常にシャープで、NASAの土星探査機カッシーニが捉えた映像をネットで見たことがあるが、あれよりずっと赤っぽい。
 ぼくは横たわったまま、土星の近くを浮遊しているのだった。
 やがて女の子の、たぶんセリの声が聞こえた。
 Home──。
 土星ではなく、この宇宙空間そのものがあなたのホームなのだ、という意味である。
 非言語のメッセージを、ぼくは姿の見えないセリに送る。
「でもここは空気もないし、ほんとうはものすごく寒いんだろうし、とてもホームなんかじゃないよ」
 すると、セリがこう答える。
「あなたは肉体を超えた意識そのものなのよ。そのことを理解しないと。意識そのもののあなたにとって、空気も寒さも関係ないのよ」
「ああ、なるほど」
「有るということ、無いということが大切なの。この宇宙空間は無ではなく、ちゃんと有るのよ。有るということがつまり、ここがあなたにとってのホームだということなの」
 ガイダンスのおじさんの声が、フォーカス10に戻れと言う。
 ぼくは惑星に降下していく。
 いつもなら地球に戻るのだが、降り立った惑星はどう考えても地球ではない。
 鮮やかなピンク色の空が広がり、大地は黄色なのだ。ハリエニシダのような植物が群生しており、ところどころに泡状の生命体みたいなものがいる。土星のもっとも大きな衛星、タイタンかなとちらっと思ったが定かではない。
 ガイダンスのおじさんがまたフォーカス12へ行けと言う。
「あなたは今、フォーカス12にいます」
 そう言われるが、ぼくは12になんていなかった。
 宇宙空間に広がるオーロラみたいな光そのものになっているのだった。
 オーロラとしての自分が空間に広がっているのを感じる。
 そいつは拡散していく。やがてぼくは、自分が宇宙全体に広がったオーロラ、宇宙意識とでも言うしかないものになっているのを感じる。  意識体となったぼくは、宇宙に隈無く広がっているのだ。もはやある点を浮遊しているわけではなく、見えない存在として宇宙と同化している。
 ああ、そうか、とぼくは思った。
 輪廻を脱して解脱するというのは、案外とこれに近い体験なのかもな、と。
 普段のぼくは、美味しいものを食べたり美しい女性と恋愛したり、肉体を抱えた人生というものは悪くないものだと思っていたが、これなら「卒業」するほうがずっといいかもな、と思えた。
 そこでぼくが言語以前のイマジネーションとして抱え持ったことが、全宇宙にメッセージされていくのだ。これはすごいことなのではないかと思う。
 ガイダンスのおじさんがフォーカス10に戻れと言い、そこでぼくの緊張感が解けたらしく、リラックスできた。ふと気がつくと、いつものフォーカス10の、地球の山腹にあるリーボールで貼ったテントの中にぼくは横たわっていた。
 これまでのヘミシンク体験で最高に深いトリップだった。
 宇宙のイメージが、この体験で一変したのだった。


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