はっきりと目を覚まし、ぼくはiPodでヘミシンクを聴くことにした。ヘッドフォンをしたままベッドからが起き上がり、窓の外をぼんやり眺めていた。
ぼくはそれから深いため息をつき、枕元に置いてある手帳を手に取り、メモしようとする。
「フォーカス12?」
キッチンのほうから声が聞こえた気がした。現実的な音声ではなく、ガイドとの交信の時のような非言語のコミュニケーションである。そもそも、ぼくはヘッドフォンでヘミシンクを聴きつづけているのである。
「そう」
「フォーカス12の上級編、フリーフローね」
「好きなんだよね、12がさ」
コーラかジュースを飲むような音がして、つづいて彼女が言った。
「せっかくなら、もっと体系的にやればいいのに」
「これはもう性だからしょうがないんだよ」
「ドラッグじゃないのよ」
顔をあげると、ブロンドの髪のセリが立っている。ガイドというより、妖精みたいな感じである。
念のために書くが、これもイメージとしてそう見えるという意味であって、いわばイリュージョンとかホログラムのようなものだ。
ぼくは、iPodのヘッドフォンを外す。
だが彼女の姿は消えなかった。
「うれしいよ、やっとここで会えて。スパイダーマンはたまに外を歩いているときにあらわれるんだけど、あんまり頼りにならなくて」
「そんなことを言うもんじゃないわ」
彼女は部屋の隅においてある椅子に腰かけ脚を組んだ。
どういうわけかコーラの紙コップを持っている。
セリはキャメロン・ディアスを子供にしたような、ソバカスが浮かんだ小生意気な顔だ。ちなみに、ぼくはキャメロン・ディアスは好きではない。
そもそも胸のない女性にはあまり興味がない。
「最低……」
なかなかに勘が鋭い。
ぼくは起き上がり、トランクスとストーンズのベロマークのTシャツだったので、ジーンズをはく。
「ところでさ、ガイドって幽霊じゃないよね?」
「こんなきれいな脚がある幽霊なんて日本にいるわけないじゃないの」
彼女はペディキュアを塗った脚をぼくのほうへ伸ばしてみせる。
「こら! スカートの中をのぞかない!」
「子供のパンツになんか興味ないよ。だけどセリはフランス人じゃん。だったらやっぱり幽霊かも」
「日本人だとかフランス人だとか、そういうことはまったく関係ないのよ。それに幽霊とか、私をそういう低次元の存在といっしょにしてほしくないわ」
「じゃあ、妖精みたいなもの?」
セリはうれしそうにニコッと笑う。
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